・「一般媒介」は複数の会社に依頼できると聞いたが、デメリットはないの?
・「一般媒介」で販売しているが、なかなか物件が売れないので原因を知りたい。
売却初心者さん
鹿児島 二郎
媒介契約の種類については先日公開した記事で、不人気物件には「専任媒介」がおすすめな理由を解説しました。
本記事では前回の記事で解説し切れなかった、一般媒介契約を選び、「販売活動を開始した後」に直面する問題について掘り下げて参ります。
特に、場面毎の「営業担当者の心理」については、実際に不動産会社に勤めていないとなかなか知ることができない情報です。
大手仲介会社に勤める私の経験を交えつつ詳しくご説明しますので、不動産のご売却を検討されている方は是非ご一読ください。
なお、基本的な言葉の意味等については、先日公開した記事で既に解説をしておりますので、今回は割愛しています。
まだご覧になっていない方は、上記のリンクをご参照ください。
目次
不動産売却で「一般媒介」を選択するデメリット【営業マンの心理を宅建士が解説】
(1)価格交渉に弱い
一般媒介契約を締結している売主は、買主から価格交渉を受けた際に立場が不利になる可能性があります。
一見すると不自然極まりないこの事象が起こるのは、一般媒介契約の特性が「営業担当者の心理」に影響を及ぼすからです。
複数の不動産会社に仲介を依頼できる一般媒介契約では、仲介手数料を受け取れるのは取引を成立させた1社のみ。
要するに「早い者勝ち」となります。
買主から価格交渉の打診を受けた営業担当者の心理は、契約形態によって以下のような違いが生じます。
専任媒介契約を受けているA社の営業担当者
購入検討者
営業担当者
営業担当者
営業担当者
一般媒介契約を受けているB社の営業担当者
購入検討者
営業担当者
営業担当者
営業担当者も商売ですので、「早い者勝ち」の競争状態では、スピードに対する意識が強くなります。
そのため、高い金額での売却を目指して一般媒介契約を選択することは、結果として交渉のミスリードを招くことにつながるわけです。
売却初心者さん
鹿児島 二郎
(2)売れ残り感が出る
昨今は不動産の売却でもネットを活用するのが主流です。特にSUUMOやat home等、知名度のある不動産ポータルサイトへ効果的に掲載することが重要になります。
考えることはどの不動産会社も同じなので、例えば一般媒介契約を10社と結ぶと、ポータルサイトの検索一覧であなたの物件が10枠分ズラッと並びます。
広告効果としては1枠掲載されていれば十分ですので、10枠も並んでいると「派手に広告しても売れない物件」というマイナスイメージを与えます。
こうした事情は、プロの不動産会社が自社開発物件を売り出す時も同様で、デベロッパーによっては、ポータルサイトへの物件掲載を禁止している企業もあるくらいです。
不動産売却は最終的に買い手となる1組を見つければ良いので、「売れ残り感」を演出する過剰広告をおこなってしまうと、
などと思われ、買主に足下を見られる原因となります。
売却初心者さん
鹿児島 二郎
(3)買主が法人の場合、購入意欲が低くなる
不動産の購入を検討するのは個人だけではなく、社宅や事務所として検討する一般法人や、加工転売をおこなう不動産買取業者も、その候補となります。
資金力のある法人ほど、組織が大きいために稟議・決裁の過程が複雑であることが多く、不動産購入のような大規模な投資であれば、少なくとも役員まで話を通すのが通常です。
一般媒介契約は複数の不動産会社が窓口となっていることから、仲介会社の営業担当者が、問い合わせ状況をリアルタイムで把握し、購入検討者に逐一報告することは困難です。
また、交渉中に他社から横槍が入る可能性があるため、せっかく好条件で話がまとまりかけていたのに梯子を外される恐れがあります。
買主法人の担当者としては、稟議中に「売れちゃいました」や、決裁後に「ダメでした」となる事態は避けたいため、窓口が複数ある物件は、検討自体が及び腰になることも多いです。
こうした事情もあってか、私自身、買取業者の担当者に物件を紹介すると必ずと言っていいほど「御社の専任ですか!?」と聞かれます。
売却初心者さん
鹿児島 二郎
(4)仲介会社からの「売却サポートサービス」を受けにくくなる
昨今はコロナ禍を背景とした売り物件の減少から、仲介会社同士の媒介受託競争も激化しています。
なんとか売主様から依頼を受けるため、大手を中心に以下のような「売却サポートサービス」を提供している会社も増えてきました。
【 売却サポートサービスの例 】
- 測量費用の支援
- 残置物の処理や、荷物の一時預かり
- 売却前の建物検査・保険付与
- ハウスクリーニング
- ホームステージング(モデルルームのようにおしゃれな家具を設置するサービス)
- 庭の雑草除去
サービスの提供を受けることで売却時の費用負担を減らしたり、物件の見栄えが良くなって買い手から好条件を引き出す効果が期待できます。
しかし、こうしたサービスを提供に当たっては、「専任媒介(専属専任媒介)契約の締結」を条件としている会社が多いです。
つまり、一般媒介を選択することで、本来であれば受け取ることのできた利益を逃してしまう可能性があるのです。
売却初心者さん
鹿児島 二郎
(5)販売戦略の提案が無く、放置される可能性がある
不動産を高値で売却するためには、売出価格や値下げの時期といった販売戦略を策定することが重要です。
営業担当者はホームページの閲覧数や問い合わせの数を分析し、「いくらなら売れそうか?」を見極めながら販売活動をおこないます。
しかし、一般媒介の場合はこうしたコンサルティングを受けられず、場合によっては放置されてしまう可能性が高いです。
その理由は、大きく分けて3つあります。
① そもそも報告の義務がないこと
不動産会社は、専任媒介契約の場合は2週間に一度、専属専任媒介契約の場合は1週間に1度以上、売主様に販売活動の状況報告をするよう、宅建業法という法律で定められています。
しかし、一般媒介契約ではこうした定期報告の義務がありません。
仲介手数料を受け取れる可能性が低い代わりに、あまり手間をかけなくても良い仕組みになっているのです。
② 販売活動の全容が把握できないこと
先ほど、「ホームページの閲覧数や問い合わせの数を分析する」と記載しましたが、一般媒介契約の場合はこうした数値が複数の不動産会社に分散されます。
例えば、A社では週に1度反響があるが、B社では全く無いというケースです。
市場からどの程度の反応があるのかが分からないため、営業担当者としてもどういった提案が最適なのかを判断できません。
全体を把握できるのは売主様だけ。
極端な話、一般媒介の販売戦略を立てるのは売主様の仕事なのです。
③ お金や時間をかけても、他社に利益を取られてしまう可能性があること
報告の義務が無く、全容も把握できない。
それでも、心ある営業担当者が販売戦略を提案してくれたとしましょう。
近隣にチラシを撒き、綺麗にホームページに掲載し、相場水準への値下げを提案する。。
こうして多くのお金と時間をかけて物件の価格が下がった場合、その効果は何もしていない全ての不動産会社も受け取ることができます。
価格が下がったタイミングで、チラシを見ていた方が他社のホームページから問い合わせをしてしまえば一巻の終わりです。
こうした事情があるため、営業担当者は一般媒介のお客様にお金と時間をかけたくないのです。
売却初心者さん
鹿児島 二郎
まとめ
- 一般媒介は価格交渉に弱い
- 同じ広告が乱発されることで「売れ残り感」を演出する
- 窓口の乱立によって、法人から検討を避けられる場合がある
- 仲介会社からの「売却サポートサービス」を受けにくくなる
- 販売戦略の提案が無く、放置される可能性が高い
よくある勘違いとして、
という考え方がありますが、ご説明をしてきた通り、高く売りたいのであれば基本的には専任媒介をおすすめします。
媒介契約の種類は、営業担当者や買い手側の心理も踏まえた上で選択しましょう。
鹿児島二郎