この記事ではこんな疑問にお答えします
・不動産売買仲介会社への就職を検討しているが、どういった会社があるのか知りたい。
・仲介会社ってどこも同じことをやっているイメージだけど、会社の強みやビジネスモデルに違いはあるの?
どのような業界にも、規模や売上高が圧倒的に大きい「大手」と言われる企業が存在します。
これは不動産売買仲介の世界も例外ではなく、毎年、売上高上位の企業は大手間での順位変動はあれど、ほぼ決まった名前が並んでいます。
しかし、考えてみるとこれは不自然な話でもあります。これだけ世の中のIT化が進み、業界によっては優れたベンチャー企業が頭角を現している中で、不動産売買仲介の世界ではそういった動きが希薄です。
仲介業は技術的な特許や、莫大な設備投資が必要なわけではなく、やろうと思えば個人でも参入できるという状況にも関わらずです。
なぜ、大手仲介会社は毎年のように高い市場シェアを確保できるのでしょうか?
今回は、実際に大手と言われる仲介会社に勤務している筆者が、「大手仲介会社」が利益を生み出す仕組みについてご説明します。
不動産の売買を検討中の方はもちろん、大手仲介会社への就職や転職を考えている方にも参考になる内容となっておりますので、是非、最後までご覧ください。
不動産仲介営業の魅力については、以下の記事で詳しく解説しております。
そもそも「大手仲介会社」とは?
ここでは「大手仲介会社」を、「巨大なグループ企業のバックボーンがある子会社」と定義します。
今日、売上高上位の企業は、大半が上記の定義に当てはまっており、これが大手がシェアを独占しているという業界特性の本質になるからです。
そのため、個々の企業は独立自営である、フランチャイズ形態の営業をおこなっている会社や、自社物件の販売をおこなっているディベロッパーは除外します。
「大手仲介会社」が属している巨大グループは、大まかに分類すると以下の4種類に大別されます。
- マンションディベロッパー系
- 銀行系
- 電鉄系
- ハウスメーカー系
それぞれに特色はありますが、共通しているのは、彼らが不動産売買を望むお客様の「情報源」を持っているということです。
そしてその「情報源」とは、単なる顧客紹介のスキームではなく、場合によっては競合が存在しない状態で情報提供を受けることができる、優れた仕組みとなっています。
以下、その具体的な内容について解説します。
最強のビジネスモデル「親会社から情報が降ってくる」
不動産に限った話ではありませんが、営業という職種において最も重要かつ大変なのは、「見込み客の新規開拓」です。
不動産業界で言えば、日々様々な売買仲介業者が、ポータルサイトへの広告出稿、ポスティングチラシの配布、賃貸住宅への個別訪問といった方法で、この新規開拓をおこなっています。
大手仲介会社の場合、この新規開拓を親会社等のグループ各社が代わりにおこなってくれるのです。更に、紹介を受ける顧客は既にそのグループと取引があったり、親会社の担当者と信頼関係ができあがっているケースが多いため、他社と競り合うような営業活動をおこなう必要もありません。
言うならば、よほどの失敗をしない限りは、半自動的に収益が上がるような仕組みが完成されているわけです。この仕組みは見込み客の開拓に四苦八苦している街の不動産屋が太刀打ちするにはあまりにも高い壁であり、これが大手仲介会社が業界のトップを維持し続けられる理由です。
続いて、先ほどご説明した4つのカテゴリ毎に、大手仲介会社がどのようにグループ会社の情報を集約するのかを解説します。
(1)マンションディベロッパー系
マンションディベロッパー系の仲介会社は数も多く、売買仲介の業界において最大の勢力です。業界トップと呼ばれる企業の多くが、このカテゴリに分類されます。
これらの会社は、親会社である「巨大ディベロッパー」が、常時新築マンションを市場へ供給しており、毎週ピカピカのモデルルームへ多くのお客様が来場します。
そこで出てくるのが、新築マンションへの住み替えに伴う、今の住居の売却ニーズです。
新築マンションを購入したいお客様が、住宅ローンの返済が残っている持ち家に住んでいる場合、残債の一括返済やダブルローンといった方法を選択できない方は、今の住居を売却する必要があります。その際に紹介されるのが、子会社である仲介会社というわけです。
同じグループの新築マンションを検討している以上、その企業に悪い印象を持っていることは無いでしょうし、モデルルームの担当者と関係ができていれば、違和感なく顧客の引継ぎがおこなわれることになります。
新築マンションの決済という取引のお尻も決まっているため、高い金額にこだわられて販売が長期化するおそれもありません。仲介会社の担当者にとっては、この上無くありがたいお客様です。
また、マンションディベロッパーは新築マンションを販売した後、その後のマンション管理についてもグループの管理会社が受託しますので、売った後もお客様との関係が継続します。
よって、新築後数年経って売却のニーズが出てきた際も、管理会社の担当者やマンションの管理人を通じて、仲介会社へ情報が連携されることになります(うまく行けば住み替え先の仲介も任せてもらえる)。
まさに「ゆりかごから墓場まで」。マンションという「商品」を作り、管理しているというアドバンテージは絶対であり、今後もマンションディベロッパー系の隆盛は続いていくことでしょう。
鹿児島 二郎
(2)銀行系
2つ目は銀行系です。これらの会社は、金融機関の中でも不動産仲介をおこなえる「信託銀行」の一部門が分離・独立して誕生したもので、親会社との結びつきが非常に強いのが特徴です。
彼らの強みは何といっても、お客様の資産背景を熟知していること。口座にいくらお金があり、どんな不動産を持っていて、今後どういった悩みが生じそうなのか、その情報を基に銀行本体のソルジャー達が様々な提案営業を仕掛けていきます。
その中で不動産の売買ニーズがあれば、子会社の不動産仲介会社へ情報を連携するというスキームが確立しているのです。
銀行系は、大手ディベロッパー系以上にグループとお客様の関係性が強固であり、高齢層のお客様も多いため、いとも簡単に売却依頼を自社で受託することができます。
また、顧客に高齢者が多いということは、相続対策に伴う収益物件の購入相談等も多く、取引価格は高額になる傾向があります。
仲介会社が受け取ることができる仲介手数料の上限は、売買価格400万円超の物件であれば3%+6万円、すなわち高額物件であるほど報酬が増えるため、これは非常に大きなメリットです。
また、個人のお客様だけでなく、本体の銀行が融資をしている企業や、そのオーナーの高額物件についても取り扱うチャンスがあります。事業が傾いて保有不動産を売却する場合などは、顧客もメインバンクである銀行のグループ会社を悪いようにはしにくいため、物件は高額でも営業としての難易度は低めになります。
銀行系は、大手仲介会社の中では比較的店舗数が少ない傾向にありますが、前述の理由から1件当たりの単価が高いため、売上高ランキングでも一桁台の順位を維持しているのです。
そんな素晴らしい事業モデルを有している銀行系ですが、昨今は親会社である銀行の店舗縮小トレンドなどを背景に、その風向きが変わってきているようにも思えます。
銀行から紹介される高額案件を仲介するという前提で会社が成り立っているため、一般的なマイホームの仲介を積極的におこなう社員が育ちにくいという弱点があり、はっきり言えば「営業力」の無い社員も多いです。
今後、銀行からの情報量が減少していくようだと、それに伴って業界における存在感も低下する可能性があるため、就職先として銀行系仲介会社を検討する際には、売上高が毎年増加しているような成長フェーズにある会社を選ぶと良いでしょう。
鹿児島 二郎
(3)電鉄系
電鉄系の大手仲介会社は、自社グループの縄張りである沿線エリアの仲介において強みがあり、場合によっては最強を誇ります。
大手仲介会社のブランド力と、地域密着型不動産会社の良いとこ取りといった形態であるため、地域に精通している社員が多いのが特徴です。
電鉄系仲介会社の店舗は、改札の目の前やすぐ横、駅前商業施設の一角など、親会社が再開発で作った箱の最も良い立地を確保できるため、駅を利用する飛び込み客の来店が期待できるのが強みです。
往々にして、営業エリアは自社の沿線に限定されがちですが、中には他社の沿線地域へ積極的に進出している企業もあります。
また、電鉄会社は事業の一環として新築マンションの分譲をおこなっているケースが多いため、そういった意味ではディベロッパー系の強みも持っていると言えるでしょう。
情報源といった意味合いでは前述の大手ディベロッパー系、銀行系には多少劣りますが、会社によっては仲介だけではなく、沿線地域の再開発に伴う新築マンション・戸建案件などにも携わるため、就職先という観点では、広範な業務を経験できる可能性があります。
鹿児島 二郎
(4)ハウスメーカー系
ハウスメーカー系の大手仲介会社は、マンションディベロッパー系と同様、親会社であるハウスメーカーが建築した戸建の、住み替えに伴う売却を担うことが多いです。
中古の注文住宅を販売する際は、建売住宅との違い等、建物に関する知識を求められる場面も多いため、自社商品を取り扱うという点で顧客からの信頼を得やすい点が強みです。
ハウスメーカー系仲介会社の特徴的な役割として、注文住宅を建築するための土地を探しているお客様、所謂「土地なし客」のお手伝いがあります。
日々、ハウスメーカーの住宅展示場に来場するお客様の中には、まだ土地を持っていない方も大勢いらっしゃるため、そういった場面で仲介会社の出番が来るわけです。
しかし、この「土地なし客」に対する営業は購入の仲介であるため、媒介契約を貰って売りに出しておけば収益が入ってくる売却の仲介に比べると、継続的な物件紹介といった手間が生じる分、非効率な営業となります。
現に、ハウスメーカー系仲介会社の売上高は、業界トップ10に入るか入らないかくらいの水準で推移していますので、前述のマンションディベロッパー系や銀行系と比べると、情報源としての仕組みは少々不利かもしれません。
それでも中小の不動産屋よりは安定ますので、就職先としては、やはりおすすめできる大手企業であるといえます。
鹿児島 二郎
まとめ
- 大手仲介会社とは「巨大なグループ企業のバックボーンがある子会社」のこと
- 大手仲介会社では、「見込み客の新規開拓」をグループ各社が代わりにおこなってくれる
- 大手仲介会社の形態は、マンションディベロッパー系、銀行系、電鉄系、ハウスメーカー系の4種類
大手仲介会社は、その収益を支える顧客紹介のスキームが生命線となります。
また、大手に売買を依頼する際には、彼らにとって最も優先されるべきはグループ会社から紹介されるお客様であるということに留意してください。こればかりはどうしても、接客の頻度や、有力物件情報の紹介順位といったサービスの質へ反映されます。
また、就職や転職を検討されている読者の方は、形態毎の特徴を理解した上で、入社をご検討ください。
「名前が有名だからどこも同じだろう。。」という考えだと、後で後悔することになるかもしれませんので。
鹿児島 二郎